「いや、あいつマジありえないし、一回ガツンと怒られないとわかんないですよ!」
「うーん、でも、怒ったところで、何を怒られているかわからないからムダだと思う・・」
先日、喫茶店で休憩をしていたときに、隣に座っていたスーツ姿の男女の会話が聞こえてきた。
私にはかなり響くような高い周波数の声だったので、聞きたくなくてもイヤでも耳に入ってきてしまった。
「教えているときは『はい、はい』って、ずっと言ってて、『分からないことある?』と聞いても、『ないです』って。なのに全然できていないし!」と女性。
「まぁ、とりあえず返事しちゃった、とか・・」となだめる男性2名。
「わからなかったら聞けって、あれほど言ってるのに!!」と女性の感情はなかなか収まらない。
どうやら、最近チームに入ってきた新人に業務を教えたものの、うまく仕事が進んでいないような様子だった。
異動や入社が多いこの時期には、ありがちな光景ともいえる。
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新メンバーに業務を教えたとき、順調に仕事が進むと思いきや、何もできず仕事が進まなかった話として、
「丁寧に教えたのに全然わかっていない」
「メモっているんだから、メモ見て自分で考えてほしい」
という声を、教えた側の先輩や同僚から聞かされた人は多いのではないか。
同じことを1,2回質問される分にはイライラしない人でも、何度も悪びれずに同じ質問されるとさすがに苛立ちを隠せない場合もある。
冒頭の女性も「あれだけ説明したのに」と言っていたので、恐らく何度か同じことを伝えているのだろう。
逆に、教わっている側の声として
「『わからなかったら聞いて』といわれたけど、そもそも何がわからないのかが分からない」
「いつも席にいないし、忙しそうだし、聞き方を間違えると怒られそう・・」
「さっき同じ説明を受けたけど、やっぱり分からない・・」
という不安を抱えて、「聞きたくても聞けない人」や「質問の仕方がわからない人」も多いと思う。
このような状況はどうしたら改善できるのだろうか?教える側のスキルが足りないのか、教わる側の能力の問題なのか。
細かく分析すればいろいろあると思うが、次の2つのことは常に意識しておいた方が良いと思う。
①「聴き方(理解の仕方)」は人それぞれに特徴がある
②教えている側にも伝えきれていないことがある(無意識の前提)
①の「聴き方(理解の仕方)」の特徴は、スタジオを始めてから今まで以上に意識するようになった。
なぜならトレーニングやパフォーマンスを教えると、お客様はその場で実践するので伝わっていること・伝わっていないことがすぐにわかるし、お客様の「聴き方(理解の仕方)」による違いがあることもよくわかる。
たとえば
- インストラクションの内容を、頭の中で文章に組み立てて理解する人(聴覚情報がメイン)
- インストラクションの動作を、じっくり観察して覚える人(視覚情報がメイン)
- インストラクションを自分が動く姿をイメージしながら聞く人(視覚・聴覚情報を組み合わせている)
- インストラクションを目で見て耳で聞きながら、全体の流れをつかもうとする人(情報から全体像を描く)
このように、「聴き方(理解の仕方)」にはその人なりのクセや特徴がある。
同様に、プロジェクト内で業務の手順を教わっているひとも、
- おぼろげに全体像を把握しながらパズルにピースをはめ込むように頭にインプットしながら聞いていて、聞いている内容を整理して考えられる人
- 聞いたことを必死にメモするものの、何を意味するのかまでは思考が追いついていない、聞き取った単語を書くだけの人
- メモすることに慣れていない、何も書けない人
など、教えている人を細かく観察すれば、その人なりの特徴があると思う。
②の教えている側にも伝えきれていないことがある、の事例には社内の暗黙のルールなどがある。
教えることに熟練しているなら気が付いていると思うが、会社の雰囲気や仕事の仕方に慣れていない人には、言葉や単語の意味が理解できているか都度確認しながら教えることが必要だと思う。
新人への業務説明資料に社内用語を多用していないか、異動してきた人や未経験者に業務内容や手順が伝わりやすいように意識したか。これらは基本的なことであるが、私自身、振り返るとかなりあやしい。
以前一緒に働いていた人が、プロジェクトに入ってきた当初「『ここに過去の資料あるから』って言われたんですけどね・・。フォルダを開けば開くほど、いろんなフォルダが出てくるし必要な情報を探すだけですごく時間かかるし、自分のやっている作業が正しいのか不安になる。」 と言ったことがあった。
必要な資料を探すのにも要領を得ていないから時間かかる、しかし、そういうことをいちいち聞くのもはばかれると思うから余計に聞けなかったのだと思う。
慣れていて当たり前に感じていることは、説明が省略されたり、抜け落ちたりしやすいものだと思う。
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「聴く力」や「伝える力」は、友人関係や生活の中で培われて習慣となっていることが多いと思う。
そういう場合、教える側でも教わる側でも、自分が主体という感覚が強すぎると「伝えたいように伝え、聴きたいように聴く」というスタイルが身についてしまう。そして、意外とそのことに気が付いていない人が多い。
相手に対する意識が自分に対する意識と同等かそれ以上にあれば、良いコミュニケーションが生まれると思うが、聴き方の特徴を掴んで、相手に合わせた伝え方をするのは誰にでもすぐにできるとは限らない。
では、どうしたらよいのだろうか。
繰り返しになるが、やはり、教える側は「(意図したようには)伝わってない」という意識を持つこと。
そして、教えた相手があとで質問しやすいようにあるいは漠然とした不安を抱えないで済むように、「やりながら理解できると思う」と伝えるだけでも相手は安心すると思う。
また、放置して仕事が進まずにトラブルになるような事案については、テスト環境で一緒に実践する(ハンズオン)などの対応があったほうがいい。
教えた相手の仕事が進まないときに、「分からなかったら聞けって言ったよな」と口にする前に、一呼吸おいてみてはいかがだろうか。
自身が伝えたことは会社やプロジェクトのことを何も知らない新人が理解できるような内容だっただろうか。相手の「聴き方」はどうだったか。
ちょっと思い返してから必要なフォローをすることで相手も質問がしやすくなる。
仕事を効率良く進めるために、まずは相手の「聴き方」、自分自身の「伝え方」を見直してみよう。
入社間もない会社での業務や初めて参加するプロジェクトでは、誰しも漠然とした不安を多かれ少なかれ感じると思う。私がこれまで経験した中では、「しっかりがんばらないと」と考えるタイプの人は特に、自分で自分を追い込みがちだ。
さらに、人に「聞く」ことが苦手だったり、「忙しそうだから聞くのは悪いな」と気を遣うようなタイプの人は自分で抱え込んでしまい結果的に仕事が停滞する。
それを防ぐにはありきたりだけれど、相手の「聴き方」と自分の「伝え方」を見直すことが必要なのだと思う。
余談だが、当社のサービスは、どんな風に傾聴しているのか、自分と他者の「聴く」を理解する研修サービスもあるので、検討いただけたらと思う。
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人は常にいろいろな“可能性”を秘めていると思います。自分自身も、一緒に働く仲間も、何かちょっとしたきっかけがあればプラスに発揮される能力が隠れています。
当社はその「ちょっとしたきっかけ」をとおして、お客様自身に新たな能力に気づいてもらいたい、それをビジネスにつなげてもらえるようなサポートを目指しています。
当社の企業向け研修「じぶん発見サービス」についてラジオ番組にてお話させていただきました