1.あなたはメンバーの特性を自分の価値観で見ていませんか
組織やチームを構成するメンバーの個性・特性を知ることで、メンバーの個々の武器を知り、強みを活かして組織やチームの能力の底上げを図ることができます。
このことは、多くのコーチングに関する書籍や自己啓発セミナーでも言われていますし、「傾聴」と「信頼」を基盤にしたコミュニケーションがリーダーには必要とされています。そのことに対して異論はなく、それが理解できないリーダーや中間管理職はいないと思います。
では、どのようにしてメンバーの素顔の部分、すなわち、本来その人が持っている特性を知ることができるでしょうか。
また、メンバーの素顔を知ることが、なぜチームビルディングの第一歩となるのでしょうか。
そのことを考える上で、まずはプロジェクトの発足とその後に発生しがちな問題をみていくことにします。
1.1プロジェクトの発足
プロジェクトを発足するとリーダーはキックオフミーティングで、チームの方針を発表します。
また、メンバーは自己紹介で経歴や趣味などの話しをします。
チームは、取り組むべき目標を共有し、目標達成に向かってPDCAを繰り返しながら進んでいくことになります。
1.2不平・不満の出現
ところが、プロジェクトは計画を着実に遂行するだけではなく、試行錯誤が必要な局面も出てきます。
そして、状況の変化は、様々な問題を引き起こします。
思うようにプロジェクトが進まず、リーダーもメンバーも改善策よりも個人の不満が先に出てくるようになります。
課題や問題をどうすれば解決できるのだろうという悩みがいつの間にか、「自分の気持ちや思い、指示が相手に伝わらない、こんなに頑張っているのに…」という思いに代わってしまうのです。
状況がさらに悪化すると、「このメンバーでは仕事ができない、このリーダーのもとでは無理だ」という状況になっていまいます。
そうなると、チームの崩壊です。
【リーダーとしての目線】
- メンバーとうまくコミュニケーションがとれない、一体感が感じられない
- しっかり指示を出しているのに、進捗が思わしくない
- メンバーの力が1+1が2にならないどころか1以下になってしまった
- 報告と実際の状況にかい離がある
- 隠れていた問題がある日突然発覚する
- 先の見通しが自分でもわからない
【メンバーとしての目線】
- リーダーの指示が曖昧で具体性がない
- 急に仕事の優先順位が変わる
- メンバー同士が協力しあわない、自分だけ頑張っているみたいに感じる
- 進捗が思わしくないことに対してリーダーは怒るだけで、ますますチームの雰囲気が悪くなる
1.3お互いを知っているつもり
何故このようなことが起こるのでしょうか。
キックオフミーティングで方針を確認し、お互いに自己紹介をし、成し遂げる目標に向かっている。
そして、その目標はチームとしてしか成し遂げることができないことも、みんな知っているはずです。
私は、リーダーも含めてチーム内で「お互いに相手を知っているつもり」になっていることも原因の一つであると考えています。
1.4メンバーの素顔(特性)を知るには
リーダーは、日々の業務を通じてメンバーの強みや改善点を観察し評価していると思います。
例えば、就業中では朝の挨拶、ミーティングでの発言、勤務態度や報・連・相のタイミングなど。
就業時間外では懇親会での雰囲気、ゴルフをする人はプレイ中のリラックスした部分から人柄や積極性や協調性などを把握していることもあるでしょう。
ここで気をつけなければならないのは、自分の経験値や価値観が優先していないかということです。
「人は自分の経験値や価値観、あるいはポジションによって相手を評価、認識することがある」ということです。
相手の素顔を知るうえで、経験や価値観が良い評価・判断になる場合と、逆に経験と価値観が邪魔をして人柄や隠れた能力に気が付かないことがあります(私もそうでした)。
人を評価するときにある程度の尺度が必要な場合がありますが、その人の素顔を知るにはそれは必要ありません。
1.5全員が同じ目線になれる体験をする
全員が同じ条件で未体験なことに挑戦した時には、個人の素顔が出やすくなります。
リーダーが自分の経験値や価値観が及ばない状態、メンバーも日常業務と違った環境でチームとして何かを体験する。
例えば
- 紙を10枚だけ使って折ったり丸めたりして高いもの作る
- 使ったことのない器具を使ってうまく体を動かせるか
- ポーズを決められるか
など。
誰かがアドバンテージがある状態、あるいは職場での関係性が出てしまうような状況を極力排除することが必要ですが、
普段見られなかったメンバーの感受性や、人とのかかわりあい方、成果の共有の仕方などがメンバーの素直な感情とともに垣間見ることができます。
プロジェクトが発足して間もない段階でお互いの素顔を知ることができれば、プロジェクトのPDCAにもメンバーの特性を有効に反映させることができます。
2.業務命令はチームビルディングにならない時代
もう何十年も前の話しになってしまいますが、バブル時代のCMで「24時間、戦えますか!」というものがありました。
とても力強いグローバルエリートサラリーマン(時任三郎)が颯爽と登場します。
今、冗談でも「24時間戦えますか!」と言ったら、超ブラック企業まちがいなしです。
今は、働き方改革の時代です。
働き方改革が求められている今、単純な業務命令で部下を叱咤激励するというスタイルは通用しません。
一つ一つの仕事の意味や、何故それが必要なのかということも含めた意思疎通が必要になってきています。
2.1チームワーク、チームプレイの意識づけ
メンバーがお互いをポジティブに意識・認識しあいながらチームの目標・目的に向かっていくと、「仕事が共有化される」「アウトプットが具体的になる」「助け合い」と、チームとしての責任を意識することが芽生えます。
これは、スポーツを想像するとわかりやすいと思います。選手たちが自らの目標に向かって、なすべきことをコミットしそれを実行していく姿です。
優勝するような強いチームはそれを選手自身がしっかり意識しています。
逆に監督に強制的に練習させられる、先輩が後輩をしごく、ミスにたいして体罰がある、といったチームは試合ではそれほど良い結果を残すことができません。
チームとして試合に臨めていないからです。
チームビルディングで難しいのは、メンバーが各ステップ、お互いのパート、それらの関連性をチームとして意識することができるかという点です。
リーダーの強制的な業務命令や指示によるものではなく、メンバーがお互いを補完しあい、チームとしての価値観、責任感を持てるようにするのが優れたリーダーです。
2.2 信用、信頼、そして自信
マズローの欲求5段階説(注)において、高次な欲求として「尊厳欲求」と「自己実現欲求」があります。
チームのメンバーにもそれは当てはまります。自己実現欲求が満たされるには達成感が必要です。
そして、それは自分自身で得られるものと、チームとして得られるものがあります。個人で得られるものよりもチームとして取り組んで得られる達成感の方がより強いものに違いないでしょう。
では、そこにたどり着く流れはどのようなものでしょうか。
一つ一つの実績を積み上げて信用を作る。信用から信頼が生まれて、さらなる成長を期待されて新しいチャンスが与えられます。
そして結果が出ると達成感に包まれます。
つまり、日々の努力の積み重ねにより自分を信じることができて、それが自信となって成長していくことにより、自己実現欲求を得ることができることにつながります。
リーダーは、日々努力できるメンバーになれるように、その人の持っている特性を発見することができればチームビルディングに有効です。
(注)1.生理的欲求→2.安全欲求→3.社会的欲求→4.尊厳欲求→5.自己実現欲求
3.結論 素顔の発見からのチームビルディング
チームビルディングでは、リーダーは相手を尊重する、信頼する、そのためには傾聴が必要とされています。
相手に対する思いやりや尊重、信頼というのは人間関係を築く上で基本的なことなのですが、チームビルディングでことさら強調されるのには明確な理由があります。それは、次の既成概念を取り払うためです。
リーダーはメンバーよりも優秀である(優秀でなければならない)、と思っている人は多いでしょう。
ここに、チーム力を低下させてしまう不協和音、意識のギャップが生まれるもうひとつの要因があったからです。
例えば、
- 上から目線でものを言ってしまいがちなリーダー
- チームに人材がそろっていないと嘆くリーダー
- リーダーが何も示してくれない、何もわかっていないと不満を抱えるメンバー
これらは、リーダーが一番優秀であるという既成概念があって、組織やチームが厳格なヒエラルキーと権威主義で成立しているような場合に発生する事象です。
このような、一定の型にはまった組織は良い時には、安心感(安定感)がありますが、安心感が成長を止めてしまい、周りの変化に気がつかず知らず知らずのうちに、ゆでガエル(注)になっています。
価値観が多様化し、技術革新、経済情勢の変化も激しい現代では、変化に対応できない既成概念にとらわれているチームは原因を他者に求めてしまうのです。
(注)ベイトソンのゆでガエル寓話
熱いお湯にカエルを入れると驚いて飛び跳ねる。 ところが常温の水にいれ、徐々に熱していくとその水温に慣れていく。 そして熱湯になったときには、もはや跳躍する力を失い飛び上がることができずにゆで上がってしまう。
チームビルディングは「メンバーの素顔の発見」から始めよう
変化に対応し日々成長するチームとは、お互いがフォロワーシップ発揮する、メンバー全員がリーダシップを発揮していくチームです。
そのために必要なのはお互いの素顔を知ることです。
お互いの素顔を知る、発見することができると、そこから相手に対する理解が深まります。
そして、素顔を知るためには、リーダーもメンバーも思わず感情が出てしまうようなもの、できれば経験値に左右されない全員が初体験であるものを一緒に体験することが有効です。
そこで発見する素顔は、その人の特性そのもの、これを活かすことが変化に強く成長していくチームを目指すチームビルディングの第一歩なのです。
【著者】W.Yagihashi
大学卒業後、IT企業を経て1986年より在京キー局に勤務し、オンライン通販システム、総合会計システム、選挙システム、系列局との情報ネットワークシステム構築など様々な大規模情報システム開発に携わる。2003年以降は、主にガバナンス、コンプライアンスの整備を中心に経営管理、内部統制、内部監査、財務に従事している。