黙ってしまう人は意見がないのか?

会議で意見を求められたときに、すぐに自分の意見を伝えられる人と伝えられずに黙ってしまう人がいる。
かしこまった会議の場でなくても、何気ないふだんの会話で 「どう思う?」 と聞いても、なかなか言葉が出ない人、あなたの周りにいないだろうか。

こうした反応のひとは「意見や考えが無いから黙っている」と見られがちだ。

会議や打ち合わせの席で、「あなたに意見はないのか」と、部下を叱る上司の声を一度や二度、誰でも聞いたことがあると思う。
わたしも、コンサルティング会社にいたときは会社からもクライアントからも「会議で発言しないのはいない(いる価値がない)のと同じだ」と常々聞かされ、そういう文化の中で仕事をしてきた。

だから、わたし自身も、会議で発言しない人や意見を求められても黙ってしまう人は「意見がない人」と見ていた。

 

ところが、黙ってしまう人の中には、自分の考えを伝えることに慣れていないか、あるいは、言葉を瞬時に発信するスキルが足りていないだけで意見がないわけではない、という可能性に気づいた。そのきっかけとなったのが、ある二つの経験だ。

最初にそう思ったのは、数年前に「話し方教室」という講座に通っていたときの体験がきっかけとなった。

マスメディアのクライアント先で仕事をしていたとき、アナウンサーが話す館内放送に「さすがプロ(の話し方)は違うな」と思うことが何度かあった。そして、「しっかり話すことの基本」に興味を持って、3か月ほど「話し方教室」に通った。

その講座はアナウンススクールが運営する一般人向けのプログラム。参加者は、プレゼンをする機会が日頃から多い会社員や就職活動を控えた学生が数名、全体で20人くらいが参加していた。

その「話し方教室」の中に、「見たものを見たままた伝える」というプログラムがあった。窓際に立って、窓から見えたものを ”短文かつ詳細に淀みなく伝える”のだ。

「赤い屋根の家が見えます」
「そのとなりに10階建てくらいのビルがあります」
「ビルの正面には公園があります」
「歩行者が信号待ちをしています」
「信号待ちの先頭は黒い車です」

これらの文章を読むと、とても簡単なことだと思うだろう。しかし、いざ自分で実践してみると自分でもびっくりするほど難しかった。

わたしは自分の発表順が来るまでスラスラできると思っていた。「見たまま言えばいいんでしょ、カンタン!」とタカをくくって始めてみたものの、2つ3つくらいの文は出るが、その後は言葉に詰まってしまった。

目からは、たくさんの情報が入ってくるのに言葉にして伝えるのはかなり難しい、とすぐに思った。コツを掴めば慣れてはくるが、それでも淀みなく30、40と短文を続けざまに話すまでには結構時間がかかった。

ほかの受講生もほとんどのひとが、私と同じように最初の2、3文で言葉が詰まり、スラスラ伝えられるまで時間がかかっていた。このとき、「瞬時に情報を言語化する難しさ」を実感した。

 

そしてもう一つ、伝える難しさと「意見が無い」ということは、切り離して考えるべきだと思ったことがある。

それは、いま自社で提供している、じぶん発見サービスを受講した参加者とインストラクターとのやりとりを見て気づいたことだ。

プログラム中、インストラクターはどの参加者にも積極的に話しかける。そのときに、しっかり会話でやりとり出来ている人と、「はい」か「いいえ」で会話が終了してしまう人がいる。中には、何か答えたい様子があるものの、うまく言葉が出ずに笑顔だけになってしまう人もいる。

こうした参加者は、決して、話をしたくないとかやる気がないというわけではない。プログラムへの取り組みは熱心で一生懸命にチャレンジしするし、終始、笑顔で楽しんでいる様子は見ていて分かる。しかし、感じたことをとっさに聞かれたときに、瞬時に自分の考えや思いを伝えることに対しては慣れていない、または苦手なのだということがわかった。

 

考えや思いを言葉にして発信する力は、日々、練習すればスキルを上げることができる。

例えば、ふだんの会話での投げかけを、「はい」「いいえ」で終わらせない工夫をする。業務報告を単なる作業報告で終わらせずにささいなことでも気づいたことを伝えられる指導をする。

本人が「伝える難しさ」を自覚していて克服したいと思っているならば、先ほど書いた「話し方教室」でわたしが教わった「見えたものを見たまま伝える」練習をするのもお薦めだ。

話す行為は日常的すぎて誰でもできて当然、自分自身も「できている」と思いがちだが、アウトプットする力は一定のスキルを要する。そして常にブラッシュアップしていないと衰えていくスキルだと思う。

 

部下やメンバーに意見を求めても、黙ってしまう、「特にありません」と言われたときに、単純に意見のないひとと見るか、考えをまとめて発信するスキルを身につければ成長する可能性もあると見込むのか。

どう判断するかで、その後の会社やチーム、本人のパフォーマンスは変わってくる。

「何にも意見はないのか」

と口にする前に、黙ってしまう相手の表情や日頃の行動を思い返して、「伝えるスキル」という点において課題はないのか、振り返ってみてはいかがだろうか。

———
人は常にいろいろな“可能性”を秘めていると思います。自分自身も、一緒に働く仲間も、何かちょっとしたきっかけがあればプラスに発揮される能力が隠れています。
当社はその「ちょっとしたきっかけ」をとおして、お客様自身に新たな能力に気づいてもらいたい、それをビジネスにつなげてもらえるようなサポートを目指しています。

当社の企業向け研修「じぶん発見サービス」についてラジオ番組にてお話させていただきました

 

PAGE TOP