インストラクターに、畑違いの分野の講演を依頼したときのはなし

経験したことのない仕事を任されたときの反応は人それぞれだと思う。すぐに「やってみたい」というひともいれば、荷が重いなと感じて「私にはちょっと・・」というひともいる。頭の中で何かと比較したり天秤にかけたりしてじっくり考えてから返事をするひともいると思う。

いま私と一緒に働いているインストラクターは、基本的に何事にも〝前のめり″なタイプなので、おもしろそう!と思ったことにはすぐに「やりたい」というひとだ。

以前、このインストラクターに、ある企業のキックオフミーティングイベントで300人の社員を前に話をしてほしいと依頼したことがある。当然のように即答でOKと言われた。講演のテーマは、それまでの彼女の経歴とはやや種類の違う分野であり、さらに詳細なことはほとんど決まっていないにも関わらず、だ。

今回はどうしてこの仕事を彼女に依頼したかのかをお伝えしたいと思う。

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率直にいうと、私は彼女にその講演を積極的に依頼したかったし、受けて欲しいという想いがあった。

ふつう、人に仕事を依頼するときは「その仕事を任せられるだけの実績があるか」ということが重要視されやすいと思う。少なくとも実績があれば「安心」と考えるひとのほうが多いのではないだろうか。
私もそういう考えが無いわけではないが、「実績」がかえってマイナスに影響することもあるので、それほど重要視はしていない。

では、何を大切に考えているかというと「入念な事前準備をするかどうか」「想像力を働かせることができるかどうか」の2つだ。

この2つを持っているひとであれば、たとえ実績がない仕事でも問題なく依頼できる。
なぜなら、入念に事前準備をできる人は、知らない分野のことこそ準備を怠らないし、そういう習慣がついている人はあらゆることを想定する力、想像力の幅が広いからだ。
そして、私のこれまでの経験でいえば事前準備が出来ていればたいていの仕事はうまくいく。逆にいえば、うまくいかなかった仕事は何かしら準備に不足があったときだ。

だから、これまでのインストラクターとしての仕事ぶりや何気ないふだんの会話から、彼女はいつも「想像力を働かせて、しっかり事前準備する」という信頼を寄せていたので、実績がない講演の仕事を依頼するときも不安はなかった。

では、なぜその仕事を積極的に彼女に依頼したいと思ったのか。
彼女と仕事でもプライベートの話題でも、それこそたわいのない雑談でも、私は彼女と接していると新しい気づきや自分にない感覚や思考に触発されていた。私にとっては学びと言ってもいい。
そして、「私が彼女から受ける学びの感覚を、自分以外ひとにも感じてほしい、伝わってほしい」というのが理由だ。

さらに、今回の仕事によって「彼女自身の新たな能力も開花される」と思ったからだ。

私とインストラクターが出会ったのは6年前。当時は私も普通の会社員だったし、彼女と一緒に仕事をするなど全く考えていなかったが、ときどき食事をしながら話をする間柄だった。仕事の話や人間関係の悩み、たあいもない話などをお互いがしていくなかで、彼女に常に学ぶべき点があり、とても刺激を受けた。そして一緒に仕事をするようになった今でもそれは変わらず、尊敬する友人の一人であり一緒に仕事をする仲間でもある。

具体的にどんな部分に学びがあると感じるのか。単純に異なる職業の違いやふだん接している環境の違いから刺激を受けている、というニュアンスとは少し異なる。
なんというか、自分と共通するものを見出しながら新たな気づきを得られるという感覚だ。

的確に表現するのはとても難しいが、きっと、彼女は関わった仕事や人に対して、得た情報を鵜のみにせずに毎回きちんと咀嚼して思考しているということがベースにあり、そこに刺激を受けているのだと思う。

もう少し具体的に伝わるように、「ほぼ日刊イトイ新聞」で「おとなの小論文教室。」を連載している山田ズーニーさんの言葉を引用させてもらう。

「人間は生だ。生の人間は、白黒はっきりつかず、揺らぎ、変わり、さまざまな面を見せる。生を生のままで判断するのは億劫なものだ。こちらも揺らぎながら、じっと見続けねばならず根気がいる。

(中略)いや、『生』は面倒だ。いっそ、この人に関する『情報』で判断してしまいたい。『情報』は、『生』より平べったく、加工してあるから判断がずっとラクだ。」

(ちくま文庫 あなたの話はなぜ「通じない」のか より)

と書いているが、
この、「加工された判断がラクな情報」ではなく「億劫がらずに根気よく生身で見て判断する」というところが、彼女の思考の根底には常にあるように感じている。

だから、一見、会社員とインストラクターという職種、専門分野が違っていても、自分の生き方や働き方に参考になるような学びを感じるのだと思う。

そして、私自身が感じたことを、キックオフのオファーをいただいた企業の社員の皆さんにも感じてほしかったし、それによって、きっとお互いがプラスになるだろうと直感的に思った。

結果は、予想通り、彼女は何の問題もなく講演を終え、聴講した社員の皆さまにもとても好評だった。
300人という大勢を前にしても、聴講者の意識を、話をしている自分自身に集中させ「聞いて良かった」と思わせる能力を新たに発揮したのだ。
キックオフ終了後の懇親会では、彼女が多くの社員と談笑している姿を見て、この仕事を依頼して本当に良かった、と思った。

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